2011年　エジプトで革命

　チュニジアで起こったジャスミン革命は、アラブ諸国で独裁的な政権運営が行われている国々に飛び火し、エジプトとリビアで政権が崩壊したほか、シリアでも反政府運動が激化し内戦状態に陥っている（2012年7月現在）。これらアラブ世界への広まりは、「アラブの春」と呼ばれている。
　「アラブの春」の一連の運動では、Facebook・Twitter・YouTubeなどのインターネットが活用され、新しい動きとして注目された。

　エジプトでは、2011年1月25日に各地で大規模な反政府デモが行われ、死亡者も出ている。首都カイロのタハリール広場では数千人が座り込みを続けたが翌26日未明に政府の治安部隊によって強制排除された。大規模な反政府デモはその後連日で行われ、デモ隊と治安部隊が激しく衝突したほか、無政府状態となったカイロ市内では略奪行為も行われ、エジプト考古学博物館も被害を受けた。
　野党勢力は2月1日の無期限ゼネストと、タハリール広場から大統領宮殿までの100万人デモ行進を呼びかけ、20万人以上が集まったとみられる。ムバーラク大統領は、この日夜のテレビ演説で、次期大統領選挙への不出馬と選挙制度の改革を表明した。これにより、約30年に及ぶムバーラク政権に終止符が打たれた。
　退陣演説の後には、ムバーラクを支持するデモ隊が集結して反政府デモ隊と衝突した。ラクダに乗った者もいて、その映像は注目を集めた。
　2月11日にはムバーラク大統領の即時退任を求める大規模なデモが行われ、全国で約100万人規模に達したとみられる。スレイマン副大統領がテレビで演説して、ムバーラク大統領の退任を発表し、全権がエジプト軍最高評議会に委譲された。
　エジプト保健省が2月16日に、デモによる死者365人・負傷者を5500人と発表したが、この数字は更に増える可能性があるという。

　2011年8月3日から始まったムバーラク大統領の裁判では、約850人の死亡者が出たことに対する責任を問われ、死刑が求刑されたが、2012年6月2日に終身刑が言い渡された。健康状態が悪化しているとの報道がなされたこともある。

　ムバーラク大統領の退陣後、エジプト軍最高評議会の主導のもと、新しい体制の構築が進められている。
・軍最高評議会は、憲法改正委員会によって起草された大統領選出等にかかる憲法改正案を国民投票に付し、2011年3月19日に行われた国民投票で承認された。
・2012年1月3日に議会選挙が行われ、ムスリム同胞団（非武装のイスラム原理主義組織）の「自由と公正党」が第一党となった。
・大統領選挙の決選投票日の直前である2012年6月14日、最高憲法裁判所が「選挙制度に不備があり3分の1の議員について当選を無効」と認定し、議会は解散されることとなった。これは、軍をはじめとする体制側に、ムスリム同胞団に対する不信感があるためではないかと推測されている。
・2012年6月16日と17日に大統領選挙の決選投票が行われ、ムスリム同胞団の支持するムハンマド・ムルシーが大統領となった。新大統領は、一時、軍によって解散された議会の再招集を命じたが、その後、最高憲法裁判所の判断を尊重するとして態度を改めた。

【ＬＩＮＫ】